お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “屋根より高い”
 


桃の節句には雛飾り。
端午の節句にはこいのぼり。
ねえねえ、端午ってなぁに? 何のおはな?
ヒョゴにいに聞いたけど、知らないよってそっぽ向いちゃったの。
クロたんはもっと“ちらない”ってお眸々パチパチッてしてたの。



     ◇◇


3月3日も5月5日も五節句の一つで、
正式に言えば3月3日は“上巳(じょうし)の節句”のこと。
時期的なものから“桃の節句”と呼んでいるだけであり、
“上巳”というのは最初の巳(干支の“み”)の日という意味。
端午の節句というのも、
やはり最初の午(干支の“うま”)の日を表しており、
ごという音から5日となったという説が有力だそうな。
邪気を払うためにと、ヨモギや菖蒲の葉を軒に吊るしたり、
菖蒲を浸した酒を飲んだり湯に浸かったりする風習があり、
菖蒲が“尚武(武芸や軍事、それらを重んじること)”に通じるとして
はたまた菖蒲の刃が刀のようなところもあって、
立派な武将になれるようにという男の子の日になったらしく、
武家が男子誕生を知らせる幟を立てたのにあやかり、
一般の民も、天へ昇って龍になるという鯉を幟に仕立てて立てたのが
こいのぼりの始まりだそうな。(こちらは江戸時代になってから)

 ま、そういう堅苦しい話はともかく。

天高く、それは大きなこいのぼりが
風をはらんで悠々と泳いだ五日は、
とんでもなく気温の高い日々で幕開けとなったGWの、
後半のメインイベントデーでもあり。
西からお天気は下り坂となってしまったものの、
過ごしやすくはあったので、
行楽地も結構な人出になったとか。

 「朝一番の地震には驚かされましたけれどもね。」

M区は最高震度までは記録しなかったそうだが、
それでも、早起きの七郎次さんがキッチンへ立ったのと
ほぼ同時くらいにユサユサッと来たものだから、
わ、何なにと驚いたのは言うまでもなく。
一瞬 立ち眩みかしらと勘違いして、流し台の縁へ掴まってしまったそうで。
そちらもいきなりの振動にびっくりしたのか、
リビングから飛び出して来た小さな毛玉さんたちに長い脚をよじ登られて、

 『ああ、怖かったね。でも、もう大丈夫だよ?』

そちらを励まし宥めることで、やっと気を取り直したのだとか。
そして、

 「にゃ?」
 「みゃんvv」

 「ああ、これこれ。爪を立ててはいけません。」

今はリビングへ引き上げられた、
布製の大きなお魚たちがばさーと広がっているのへ。
興味津々ですと言わんばかり、
お眸々をキラキラ見張り、お尻尾を膨らませ、
小鼻を擦りつけ“くんすん”と匂いを嗅いでみたり、
前脚でちょいちょいとちょっかいかけをしてみたりするところは、
何とも愛らしく稚(いとけな)いものの、

 「竿に取り付ける前の日も、同じことを一通りやったろうにの。」

それからほんの1週間も経ってはないというに、
何だ何だ・これ?という、
まるで“初物”へのような関心の示しようなのが、
勘兵衛には可笑しくてしょうがないらしく。

 「仕方がありませんて。」

事実としては七郎次も同意ではあったものの、

 「この子たちには毎日毎日が新鮮なんですよぉ。」

なので、1週間も前にバイバイしたもの、
天高くでヒラヒラしていた小さく見えてたのが同じと思えぬまま、
忘れちゃっててもしょうがないってもんですよと、
チビさんたちの肩をもつ親バカぶりだが、

 「だから幼児番組は一話完結という作りが多いのかの。」
 「う…。」

勘兵衛様、話をややこしくしない。(苦笑)
寸の足りない短い四肢を、ちょこぴょこ弾ませ、
うろこが鮮やかにで描かれた胴の部分を駆けっこしたり。
支え環がまだ取り付けられたままの大きなお口を
そこから容易にあんぐりと飲み込まれてしまいそうな小さな頭で
“ややや?”とのぞき込んでみたり。
すっかりと遊び場扱いのこいのぼりに、
無邪気に好奇心をそそられておいでの仔猫さんたちだけれども。
小さなお手々をついての這い這いという格好で、
探検隊よろしく、とうとう胴の中へもぐり込んでった、
軽やかな金の髪した坊やだったのだけれども。

 “昨夜の奮戦振りがまるきり重ならぬのだから、
  ある意味 それも凄まじい。”

今日の好天を約束してだろう、
やや冴えた朝の空気が張り詰めるのを気遣ってか。
七郎次がそれは丁寧に淹れてくれた煎茶を味わいつつ、
無邪気に遊ぶ仔猫や坊やを眺めている壮年殿だが、
脳裏へ浮かぶは昨夜の夜更けの乱闘場の模様。
時折 雲がよぎる空の下、
どこから流れて来たものか、
木の芽どきだからと片づけるにはやや多い、
怪異の念や邪気がこごった塊、
邪霊や妖異がこちらの屋敷の結界を巡って押し寄せたのを、

 『…っ。』

仙女のような その痩躯のどこにそんな膂力があるものか。
細みの大太刀、左右の双手に取り、
夜陰の漆黒さえ切り裂く威力で、
群れなす妖異らを片っ端から制覇してゆく太刀ばたらきは。
名のある武将や伝説の剣豪を思わせる、
それはそれは冴え渡った見事さ鮮やかさであり。
頭上から振り下ろす一閃で大きな入道をたたき伏せ、
それが引き裂かれた後の宙を舞いつつ、
瞬発入れずに横薙ぎに払った斬撃では、
一帯を覆うように広がっていた霞のような瘴気、
その鋭い太刀筋に撒き起こった旋風に巻き込むよにして、
一気に吸い取り、そのまま蒸散させのという。
一手一手がそれは凄まじいまでの乱闘を延々と繰り広げた、
冷徹な美貌の鬼神。
五色の小袖をまとったその上へ、厚絹の長衣を重ね、
月光を浴びて やや白っぽい金に燦めく、
軽やかな髪を弾ませ、なびかせて。
さくさくと、あるいはザクザクと、
妖しき幻、されど
弱っていたり浮かれていたりする人心へ
こそりと滑り込んで侵食するほどの悪鬼らを、
片っ端から封滅していた、大妖狩りの誰か様。
凍ったような無表情で、
月光に青く濡れた庭先や、屋根から飛び上がった中空を翔け、
ウンカの如くに押し寄せる邪妖らを粉砕し倒した恐るべき勇姿も、
今だけは“それって何処の誰のお話か”というノリで。

 「にゃうみぃvv」

愛らしいお声で鳴きながら、
無邪気な“こいのぼり探検隊”と化しておいでで。

 “まま、平和でなによりだがの。”

窓の外には晴れやかな五月の陽差しと瑞々しい緑。
幼い和子らの無邪気な姿へ、

 「〜〜〜〜〜。/////////」

どうしましょうか、もうもうもうっ////と。
悶絶しかねぬ敏腕秘書殿を、
まろやかな肩に手をやり、どうどうと落ち着かせつつ、
健やかな樹木の梢から降りそそぐ、
燦めく木洩れ陽を見上げた御主様だったそうな。






  〜Fine〜  14.05.06.


  *ううう〜ん、まだちょっと頭がグラングランしております。
   日記を逆上ると、
   昔は 年の瀬の前や冬場に引いてたものが、
   ここ数年ほどは、四月に必ず重いのを拾っては、
   うんうんと唸っとる私なようで。
   少しは進歩をせんかい…って、おばさんだから無理?

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